「サステナブルだから売れる」は間違い。顧客価値を理解して商品の魅力を磨き、「サステナブル」以外の選ばれる理由をつくれ

2024.07.29

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リンゴジュースの製造過程で出る産業廃棄物をアップサイクリングした「アップルレザー」をはじめ、植物由来のレザーを用いたブランド事業「LOVST TOKYO(ラヴィストトーキョー)」を展開するラヴィストトーキョー株式会社。オンライン販売をメインとしつつ、2024年8月にショールームをオープン予定の成長中のブランドです。サステナブルブランドが、順調に利益を出しながら成長していくにはどうすればいいのか。その成功の秘訣について唐沢海斗さんにお話を伺いました。

 

目次


プロフィール
ECグロースのためには、リピーターと新規顧客、双方の増加が必要
「サステナブルブランド」だから売れるわけではない
第3の資金調達を活用することで、安定した資金繰りを実現
ニーズの変化に対応できるよう、1日のうち2割は「未来」を考える時間をつくる
ショールームで得られるリアルな声を、ブランドの未来に活かしたい

 

プロフィール

唐沢 海斗 / ラヴィストトーキョー株式会社 代表取締役

新卒で某大手人材派遣会社のサンノゼ支店に入社、事業開発部に所属しB2Bのソリューション営業を経験。帰国後、日本初ヴィーガンファッションのセレクトショップ事業を立ち上げるも、軌道に乗せることができず廃業。諦めきれずに現在の会社を立ち上げ、植物由来のレザーブランド「LOVST TOKYO」を展開する。

 

ECグロースのためには、リピーターと新規顧客、双方の増加が必要

――貴社の事業についてご紹介ください。

植物由来のレザーブランド「LOVST TOKYO(ラヴィストトーキョー)」を展開しています。D2Cでオンライン販売の占める割合が8割、委託販売が残り2割と、オンラインメインのブランドで、デジタルマーケティングを中心にブランドを成長させている会社です。

――ブランドを成長させるために意識していることは何ですか?

顧客価値を見極め、期待に応え続けることでブランドの本質を磨くことです。

販売だけにフォーカスすると、顧客体験が疎かになりがちです。多額の資金調達をしてスピーディーに拡大したものの、本来の顧客体験が失われていったD2C企業は数多く存在すると考えています。

ブランド本来の価値を維持したまま成長させるためには、短期的な成長だけにフォーカスせずに、社会情勢や事業成長と組織成長のバランスなど、物事が上手くいくタイミングを見極めることも重要だと考えています。弊社の場合、ブランド成長においては、短期的なP/Lの視点と、中長期で社会インパクト的な暖簾価値を創造する視点を持ちながらアクセルを踏んでいます。

ただ、新規顧客を増やしていくことがブランドの成長につながるのは事実だと思います。理想は、顧客が増えても本来の体験価値を維持またはアップグレードしながら、着実に新規顧客が増えていく状態をつくることです。

そもそも、ブランド事業は短期的な成長を目指すべきものなのかという疑問があります。特に、資本主義構造の中で、使い捨て社会を誘発するようなブランドはつくりたくないと考えている弊社の場合、スピード感だけが全てではないなと。

たとえば、長期連載されている漫画に熱烈なファンが付くのは、時間とともにファンと共有する事柄が増えていくからです。ブランドもそれと同じで、弊社が今大切にしたいのは、「いかにお客さまと自社の成長ストーリーを共有できているか」だと考えています。成長ストーリーの共有は、顧客体験の段階的なアップデートにつながります。

――お客さまと成長ストーリーを共有したことで、どのような効果がありましたか?

順調にリピーターの増加につながっています。

弊社では、昨年から国産素材の商品の販売を始めました。これは会社としてやりたかったことでもあるのですが、お客さまからの「国産素材の商品がほしい」の声も後押しになりました。ご要望をあげてくださったお客さま、ブランドとともに「満を持して」という気持ちを共有できた。だからこそリピーターの増加という結果が出ているのかなと。

お客さまと向き合いながらアップデートを重ねることが、愛されるブランドにとって大切だと実感した出来事です。

 

「サステナブルブランド」だから売れるわけではない

――レザーブランド「LOVST TOKYO」は、廃棄リンゴから生まれた「アップルレザー」を始め、植物由来のプロダクトを展開されています。他にもサステナブルな商品を扱うブランドがあるなか、お客さまに選ばれる秘訣について教えてください。

まずお伝えしたいのは、サステナブル「だけ」では選ばれるブランドにはならないということです。そもそも、サステナブルやSDGsに関心はあれど、実際に行動できている方は今もまだそれほど多いわけではありません。サステナブルブランドとして関心のある層の方に届いたところで、ブランドの伸びしろには限界があるでしょう。

弊社では、ユーザーヒアリングの結果、8割のお客さまがデザインを理由に購入してくださっていることが分かっています。デザインが顧客価値になっているということですね。残りの2割が環境や動物愛護の観点から選んでくれた方たちです。

このように、ブランドのグロースに必要なのは、ブランドの顧客価値を理解し、お客さまに選ばれる理由をつくることです。弊社では、デザイン面に妥協をせずに商品をつくり続けています。ファッションアイテムを購入する際、多くの方はデザインが気に入るかどうかから考えるでしょう。好みのデザインの商品を出すブランドであれば、2度目3度目の購入もあり得る。「環境にやさしいブランドだから」だけではこうはなりません。

「デザインにこだわったものづくりをしています」というと、当たり前だと思われるかもしれませんが、サステナブルブランドのなかには、「サステナブルな素材を使うこと」にばかり意識が向き、デザインが二の次となるケースもあります。それではリピーターを増やし、ブランドを伸ばすことは難しいでしょう。

サステナブルやSDGsというワードに注目が集まってきた結果、サステナブルを謳うブランドは増えています。そのなかで選ばれるブランドになるために、顧客価値を見極め、期待に応え続けるというブランドの本質を忘れてはならないのです。「NOT ONLY SUSTAINABLE, BUT ALSO FASHIONABLE」は弊社のコンセプトです。

もう1点お伝えしたいのは、「小売企業が当たり前にやることを、当たり前に続けること」ですね。

――詳しく教えてください。

サステナブルブランドの運営事業者は、「サステナブルブランドだから、必要以上に消費を誘発したくない」と考える傾向の方が多いと感じています。当たり前ですが、販促活動をしなければ、お客さまの目に触れる機会は減り、事業のグロースも難しいでしょう。

弊社も一般的な小売企業と同じく、定期的にメルマガやLINEでお客さまに向けた発信を行っています。引け目を感じず、やるべきことをやり続けることが大切です。

――逆に、サステナブルブランドだからこそ、しないほうがいいことはあるのでしょうか。

ブランドによって違いはあると思いますが、弊社は値下げセールだけはやらないと決めています。ブランドとして、大量生産、大量消費を誘発しないという想いがあるためです。

商品の価値が落ちない売り方をし、プロパー消化率(定価で売れた商品の比率)を高く維持しています。サステナブルブランドとして守るべきところを決め、それにそぐわないのならばやらない。その判断を大切にしています。

 

第3の資金調達を活用することで、安定した資金繰りを実現

――これまでに銀行からの借入や、VCからの投資に限らず、さまざまな方法で資金調達を行ってこられました。「第3の調達方法」と呼ばれるレベニュー・ベースド・ファイナンス(RBF)や仕入費の4分割・後払い(BNPL)サービス「STOCK YELL(ストックエール)」も活用されています。それぞれの方法について、内容とメリットを教えていただけますか。

RBFは、過去の売上から将来の売上を予測し、その売上の一部を現金化する資金調達方法です。デットやエクイティよりスピーディーに手間なく調達したいタイミングで、利息分を回収できる見込みが立つ場合に活用するといいでしょう。

弊社では、年末調整のタイミングで利息分をペイできると判断できたため活用しました。投資家やVCよりも意思決定が早いのも、RBFを使って感じた利点でしたね。ただし、短期デットの場合は、銀行からの見方が少し悪くなる場合があることは注意点です。

STOCK YELLは、仕入費を4分割して後払いできるサービスです。私たちのようなものづくり企業は、仕入れのタイミングでキャッシュ負担が重くなります。その費用を分割できるのがメリットですね。仕入費が月々に分割されるため、売上に対する仕入費がどれぐらいなのかが分かりやすい、綺麗な帳簿がつくれるのも利点です。

在庫を半年以内のサイクルで回転させられるブランドには、STOCK YELLの活用が向いてると思います。仕入先への支払いを立替えてもらった翌月から4分割、つまり4か月で返済するため、在庫回転と支払いサイクルが合っています。弊社がまさに半年以内の消化率を維持していて、非常に相性がいいと感じています。バンカブルさんへの支払いが終わった際には、在庫もちょうどなくなっているわけですから。

弊社は第3の調達方法を上手く活用しながら、デットやエクイティの調整をしてきました。結果的に、必要以上の株の希薄化を避け、実績を伸ばすことができ、次の調達の際の交渉力が出せています。

――じっくりとブランドを育てていける状況をつくれているわけですね。

その通りです。資金繰りが上手くいっていれば、VCとの交渉もしやすくなるんですよ。その結果、ブランドにとって適切な成長スピードを守りながら、事業展開できるようになると感じています。

 

ニーズの変化に対応できるよう、1日のうち2割は「未来」を考える時間をつくる

――サステナブルブランドが増えているというお話がありましたが、そのなかで数年後も選ばれ続けるブランドになるためには、何が必要なのでしょうか。

一度成功したやり方にとらわれないことでしょうね。ときには、同じやり方を「続けない」ことも必要です。

――「続ける」ではなく「続けない」のはなぜですか?

時流によって、お客さまの課題や悩みは変化し、購買動機も変わるからです。

弊社が好調なスタートを切れたのは、サステナブルやSDGsという言葉が世間に広く知られるようになり、個人レベルでも「何かをしたい」と考える人が増えたからでした。

「捨てられるリンゴの皮からできています」という分かりやすさ、面白さもあり、試してみたいと気軽に手に取っていただきやすかったのでしょう。メディアにも多く取り上げていただき、順調に売上を伸ばしてこられました。

ただ、先ほど申し上げたように、お客さまの購買動機は時代とともに変わります。そのため、初期フェーズで成功した「環境や動物にやさしいアップルレザーでつくっているブランドです」というアウトプットを続けるつもりは最初からありませんでした。それでは2年後、5年後も選ばれるブランドになり得るとは限らないと思っていたためです。

――目の前の事業に向き合う時間と、未来に向けて考える時間とが必要なのですね。経営者はどのような割合で時間を割り振ればいいのでしょうか。

今の私は、8割を「今」、2割を「未来」について考えることに割くと決めています。ただ、今後事業のフェーズが進んでいけば、この割合が変わることもあるでしょう。自分だけで考えるのではなく、VCなど外部の人と積極的に話し、中長期視点での意見交換を踏まえ、考えを整理しています。

大切なことは、いざ流れが変わったとき、素早く意思決定できるかどうか。変化が訪れたときに慌てて考え始めるのではなく、常日頃から中長期の未来について考え、準備し続けることが、いざというときにスピーディーな動きにつながると思います。

 

ショールームで得られるリアルな声を、ブランドの未来に活かしたい

――最後に、今後の展望をお聞かせください。

直近で始めた新しい取り組みとして、2024年8月にオープンを予定しているショールームがあります。ショールームをオープンした理由は、委託や催事販売だけではなく、ブランドの世界観を維持しながら、どのチャネルよりも上位の顧客体験を提供できる場を設けたかったためです。

また、オンライン上で得られる顧客情報と、リアルなコミュニケーションから得られるお客さまのニーズとには違いがあるのではないかと思います。ショールームでの会話から得られる情報は、弊社の今後を考えるうえでも役立つでしょう。例えば、そこから別ブランドが生まれることだってあるかもしれません。そのように考え、固定費はかかりますが価値があると判断しました。

時流の変化でアウトプットを変えられるよう、今後も「今」と「未来」の両方を見つめながら取り組んでいきたいです。

 

<本記事は、取材時点の情報です>

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