【イベントレポート】福岡発 スタートアップ企業×資金調達支援のプロが深堀る! 資金調達との向き合い方

2024.03.12

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近年、国内のスタートアップ企業は、従来のベンチャーキャピタル(以下、VC)やコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)からのエクイティファイナンスに加えて、デットファイナンスやファクタリングなどの手法も活用する傾向が強まっています。このような事実を踏まえ、多化するファイナンス手法のケースに応じた活用方法を考える必要があります。

そこで、スタートアップ企業の「資金調」をテーマにしたオフラインイベントを、2024年2月2日に当社主催のもと福岡で開催しました。福岡発のスタートアップ企業であるOxxxの代表取締役である黒瀬優作氏と、株式会社INQの代表取締役CEOである若林哲平氏をゲストに迎え、当社代表の髙瀬大輔との三名によるトークセッションを実施しました。本記では、イベントの様子をレポートします

 

登壇者

黒瀬 優作氏 / 株式会社Oxxx 代表取締役

2012年、株式会社Nexyz.に入社。2014年、グループ会社である株式会社Brangstaに転籍し、BtoB向けECサイトを運営する企業支援をするディレクターとして従。2016年、美容系スタートアップ企業に営業部長として入社。2021年3月、株式会社Oxxx設立。2022年5月、冷凍幼児食「mogumo」をローンチ。

 

若林 哲平氏 / 株式会社INQ  代表取締役CEO

1980年東京都清瀬市生まれ、神奈川県相模原市出身。青山学院大学経営学部卒。 スタートアップの融資支援の株式会社INQ代表取締役CEOと、スタートアップ課題解決プラットフォームの株式会社StartPass取締役COOを兼務。 VC・エンジェル投資家、起業家からのスタートアップをご紹介いただき、融資による資金調を累計800件超47億円以支援。東京都ASAC・NEXs TOKYOなどの自治体のアクセラレーションプログラムのメンターも務める。趣味は音楽とお弁当づくり。4児の父。

 

髙瀬 大輔 / 株式会社バンカブル 代表取締役社長

事業会社のマーケターを経験後、デジタルホールディングス傘下のオプトへ入社。 同グループのインハウス支援コンサルティング会社ハートラス(旧エスワンオーインタラクティブ)代表を経て、2021年4月よりバンカブルの代表取締役社長に就任。 “新たな金融のカタチを創り出す”をミッションに掲げ、広告費の分割・後払いサービス「AD YELL(アドエール)」、在庫/仕入費の分割・後払いサービス「STOCK YELL(ストックエール)」を展開

 

今回のイベント会場は、福岡にあるスタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next(以下、FGN)」。官民共同で起業家支援を行う施設として、全国の起業家やスタートアップ・ベンチャーからも注目されている場所です。まずは、髙瀬のアイスブレイクからイベントがスタートしました。

バンカブル髙瀬(以下、髙瀬):Oxxxさんは、事業を0からスタートし『日本サブスクリプションビジネス大賞2023』で特別賞を受賞するなど、急速な成長を遂げています。また、黒瀬さんご自身は、複数回の資金調達をした経験を持つ経営者でもあります。一方、INQ 若林さんはデットファイナンス系の支援ベンダーとして数多くの企業を支援されており、その視点から資金調達の環境やデットファイナンスのあり方について話していただけることを期待してお声がけしました。

 

スタートアップの資金調達の現在地

トークセッションに入る前に、スタートアップ企業の資金調環境について、押さえておきたいポイントに触れました。

シード・アーリーステージの資金調は活況である一方、EXITに近いシリーズD以降のステージでは株式市場の影響もあり、資金調達において厳しい傾向が見られました。やはり全体的に小口化しているという状況です。

このような資金調の概況を、VCやCVC各5社から資金調達を受けた実績があるOxxxの黒瀬氏は「シードの資金調達が活発である印象を持っている」と口火を切りました。

Oxxx 黒瀬氏(以下、黒瀬氏):FGN自体もシードの方の入居が多いですし、資金調のニュースも頻繁に見かけます。その点は2022年とあまり変わっていないように感じます。スタートアップ企業は、シード・アーリーの段階では株式市場の影響が少なく、資金調達が比較的容易であると考えられています。

しかし、最終的に評価されるのは利益を出している企業だと、髙瀬がスタートアップ経営の難度を語ります。

髙瀬:100億円超の額を調する企業が増え、シード・アーリーが活況だがボラティリティがとても激しい。ラウンドが進むほど評価がつきづらく(=ダウンサイズ)、想定していたような評価額がつかないまま場してしまう事態が生じています。

Oxxx 黒瀬氏

このような概況に対し、「資金調が難しい状況が課題にも見えるが、一方で、起業しやすい環境や融資を受けやすい制度が新たに生まれている」と補足するのは、年間200件以のスタートアップ企業のシード期の資金調達を支援するINQの若林氏(以下、若林氏)。

若林氏:ファクタリングあるいはレベニューベースドファイナンス(以下、RBF※1)といった新たな手法を取り入れた、多性のある資金調達が広がっています。大手銀行もベンチャーデットファンドを設立する動きも見られ、資金調のハードルを下げて、借り入れしやすい時代が到来していると思います。

INQ 若林氏

なかでも、今、スタートアップ界隈で話題となっているのが、2024年3月15日から申し込みが始まる『経営者保証を不要とする信用保証制度』です。これは、代表者の連帯保証を不要にする新しい融資で、X(旧:Twitter)でもリリース当初から、この話題が盛りがりを見せています。

詳細:https://www.meti.go.jp/press/2023/01/20240123002/20240123002-1.pdf

若林氏:スタートアップ企業の資金調は、こういった制度を活用しながら、補助金と融資を組み合わせることが基本です。申請や審査期間が長い補助金は、入金までに時間がかかる場合があります。一方、融資は手元のキャッシュを補えるため、急な資金ニーズにも対応できます。つまり、両者を活用することで、長期で安定的に資金を確保することができます。

ここで気になるのは、Oxxx社が一体どのようにして5社からの資金調を実現したのかという点です。

黒瀬氏:“どの段階で、どのような資金調を行うか”という戦略が重要になってきます。たとえば、シードラウンドでは、主に銀行からの融資が中心で、「信用」を基にした融資が一般的です。一方、アーリーステージ以降は、将来性やポテンシャル、つまり「信頼」に基づいて資金調達を行う傾向があるため、その々の状況に応じてベストな手段を選択する必要があるんです。

市況が悪化している今、黒瀬氏が言う通り、その々の状況に応じてベストな手段を選択することが資金調の鍵となるのかもしれません。また、Oxxx社がいかに資金調達を器用に乗り越えてきたかが伺えます。具体的な資金調達のストーリーやTipsについては、次のトークセッションで深く掘り下げていきます。

 

Session1:株式会社Oxxxのこれまでの資金調の流れ&Tips

Oxxx社は、2021年3月に設立され、冷凍宅配幼児食「mogumo」の展開やECサイト運営代行事業などに注力し、累計1.8億円の資金調達を達成しています。黒瀬氏はどのような取り組みや視点を持って資金調達に取り組んでいるのでしょうか。

***以下は、トークセッションで話された内容の一部抜粋です。***

髙瀬:まずは、Oxxxさんのこれまでの資金調の流れについて教えていただけますか?

黒瀬氏:初の資金調達は、2019年3月に、公庫と西日本シティ銀行からの協調融資を実施し、同年9月にはシードラウンドで5,000万円を調達しました。しかし、その後100社以にアプローチして60社からの返信を得たものの、全ての投資家から出資を断られる苦しい経験もありました。そのなかで、偶然の出会いがあり、状況が好転しました。2023年3月と6月には、主にVCとCVCから、1.3億円のプレシリーズAラウンドを2回に分けて調達しました。

髙瀬:VCやCVCはどのように見つけましたか?

黒瀬氏:主にFGNとの関わりからでした。FGNの交流会に参加し、東京のVCの方々と交流していくなかで、事業に興味を持っていただけました。また、地元福岡のスタートアップシーンを盛りげたかったこともあり、福岡のVCやCVCへも積極的にアプローチをさせていただきました。

髙瀬:実際に調してみて、資金調達における気付きやTipsがあれば教えてください。

黒瀬氏:融資を成功させるには、事業KPIの細かい分解と毎月の数値モニタリングも重要です。定期的なモニタリングは事業の成長を促し、エクイティの確保にもつながります。融資を受けやすくなるのは、エクイティを持った後がいいですね。キャッシュポジションが高いときに融資を受けると、融資機関から返済能力が高いと見られやすくなるからです。

 

Session2:多化するファイナンス手法。スタートアップ企業のリアルな実態は?

年間約500社と面談している若林氏によれば、事業成長の手段として多なファイナンス手段を組み合わせて活用する企業が増えているそうです。

髙瀬:最近のスタートアップ企業の資金調における傾向として、若林さんはどのように感じていますか。

若林氏:最近では、「事業は伸びているが銀行からの融資が得られない」という声が増えています。その背景として、銀行がリスクを避ける傾向にあり、スタートアップ企業の資金ニーズとタイミングが合わないことが挙げられます。そのため、新たなファイナンス手段としてRBFや後払いサービス(以下、BNPL※2)などが活用され始めています。資金調リードタイムが短い手法なので、事業の成長に集するための時間を確保できるというメリットがあります。特に、BNPLはスタートアップ企業にとって、便利な資金調達手段です。例えば、バンカブルさんのサービスもBNPLの一種として、スタートアップ企業にとって有益な選択肢の一つとなっています。

スタートアップ企業は「成長スピードが命」という部分が大きく、その成長スピードが競争優位性になることがあります。早く手間なく資金調達・確保できることは、ある種「時間を買っている」という意味合いになります。そのため、ベンチャーデットやBNPLを活用することは、成長の機会損失を最小限に抑えるための重要な手段といえます。

髙瀬:そうですね、当社では「AD YELL(アドエール)」と「STOCK YELL(ストックエール)」という先行投資による運転資金の圧迫を抑制する、分割・後払いサービスを提供しています。スタートアップ企業にトラクション ※3があれば、即座に支援しています。

若林氏:BNPL含め、資金調の選択肢が増えてきていますが、まずはオーソドックスなところを押さえることが重要といえるでしょう。公庫や国民生活事業、民間金融機関、信用保証協会などからの資金調達は忘れないようにしてください。

ステージ別の手法サマリ

 

Session3:スタートアップの資金調あるある

スタートアップの起業家のなかには、新しい領域での事業を立ちげる方も多くいます。夢や希望がある一方で、実際には黒字を作らなければ融資が難しいという現実もあります。では、どのような点に気をつけて融資を行えばよいのでしょうか?三人の視点で見ていきましょう。

若林氏:事業がシード段階にある場合、融資の対象となるかどうかを判断する際には、代表者の経験や職歴、自己資金の有無、そして事業計画の質が重要視されます。これらの要素を基準にして、融資機関は行き当たりばったりの企業でないかを見極めています。

髙瀬:それは、例えば、これまで不動産業界で活動していた方が、飲食店を始めたいと思った場合、「経験」という要素が欠けていますよね。夢や情熱はあるもののどうすれば融資いただけるのでしょうか。

黒瀬氏:非常に重要なのは、キャッシュポイントですね。自身の得意分野から利益を見込める事業を持つことは、融資において有利になります。例えば、当社では幼児食事業の他に、高単価で継続性のあるEC事業をキャッシュポイントとしています。

若林氏:黒瀬さんのやり方はすごく建設的だと思います。実際、銀行からすれば返済原資はなんでも構わないのです。副業での収入を示して公庫から融資を受ける人もいます。返済原資を示せる方は早めに行動するべきだと思います。

 

Session4:資金調に向けて、押さえておきたいポイントは?

ここまで1時間半にわたり、資金調についてのトレンドやTipsをディスカッションしてきました。最後に、改めて資金調達に向けて押さえておきたいポイントを整理しましょう。

髙瀬:改めて、お二人が考える資金調で押さえておきたいポイントは何でしょうか?

黒瀬氏:調に関しては、直接投資家や資金提供者と会うことが、最も重要だと考えています。実際に1対1での対面での会話が、奇跡を生んだ経験もあります。アナログなアプローチを増やしていくことは一見非効率的ですが、実際には有効な方法かなと思います。福岡では、大手企業や銀行の紹介を通じて、銀行の決裁者と直接会うことができました。この一工夫が銀行融資において、重要だったりします

若林氏:資金調達をするうえで最も重要なことは、やはり売が伸びていることです。売上を増やしながら事業を進めるのは一見難しそうですが、Oxxxさんのように受託業務を行いながらでも実現できるでしょう。とにかく、売上を途絶えさせないことが最も重要だと考えています。

髙瀬:なるほど、「こういう世界をつくりたいから、応援してください」というストーリーテリングだけで調できるフェーズと、それだけでは駄目で「調達したいならちゃんと利益を出してね」という段階がありますよね。ここの切り替えは非常に重要です。本日お話したようなポイントを押さえれば、どのラウンドでも資金調達に成功する可能性があると改めて感じました。

結局のところ大切なのは、「誰の」「何を」「どう解決するか」をどれだけ磨き上げられるかです。それが事業のバリュープロポジションやトラクションに繋がり、最終的には資金調達につながる事業価値へと繋がっていくと思います。

本日のゲストは株式会社Oxxxの黒瀬さん、株式会社INQの若林さんでした。

ありがとうございました。

 

イベント終了後|参加者の声

トークセッション後の交流会では、参加者と登壇者同士で意見交換がなされました。資金調の話から始まり、やがては趣味の話といったプライベートな話題でも盛りがるなど、会場のいたるところで笑顔があふれる和やかな交流会となりました。

  • まさに調達活動をこれから始める予定ですが、一歩フェーズが先の生々しい調達前後のお話を聞けて、大変参考になりました。(宿泊業)
  • ファイナンスが多様化しているとといわれていますが、フェーズ・目的で考えた時にある程度使うべき手法はよい意味で絞られると感じ、今後の支援活動に活かしていきたいです。(司法書士)

 

今後もイベントを定期的に開催していく予定ですので、ぜひご都合に合わせてお申し込みください!

▼今後のセミナー情報

https://vankable.co.jp/lp/seminar

 

※1 「Revenue Based Finance」の略。将来の売上の一部を先に現金化する方法で、新しい資金調達方法として欧米を中心に活発に利用され始めている。

※2 後払い式の決済手段「Buy Now, Pay Later」の略。信用調査が簡易なため、欧米・若年層を中心に市場が盛り上がり、日本でもBtoC向けサービスで広がりを見せている。今後、さらなる市場規模の拡大が予測されており、BtoB向けサービスの広がりも注目を集めている。

※3 トラクションとは、事業成長の兆しを表す定量的な実績を指す。

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