医療法人のM&Aは可能?売却のメリット・デメリットやスキームをわかりやすく解説

2024.04.08

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医療法人のM&Aは可能?売却のメリット・デメリットやスキームをわかりやすく解説

医療法人でM&Aを選択すると、後継者がいなくても、従業員の雇用も守ったまま、継続して医療サービスを提供できます。また、事業を売却する方法のため、資金不足の解消にもつながるでしょう。

本記事では、医療法人がM&Aを行うメリットとデメリット、そのスキームについて詳しく解説します。また、実際の医療法人におけるM&Aの事例を紹介し、成功に導くための具体的なポイントも紹介します。医療業界におけるM&Aの動向を把握しながら、事業承継の課題を解決にお役立てください。

目次

医療法人のM&Aが注目されている背景
■後継者の不在が深刻化している
■資金不足の解消や安定経営が図れる
医療法人がM&Aをするメリット
■後継者の問題を解消できる
■患者の利便性や従業員の雇用を守れる
■経営者の業務負担を軽減できる
医療法人がM&Aをするデメリット
■M&Aに時間がかかる可能性がある
■提供サービスの質が改善する保証がない
【種類別】医療法人のM&Aのスキーム(手法)
■医療法人を合併する場合
■医療法人を分割する場合
■医療法人の事業譲渡をする場合
■医療法人の出資持分を譲渡する場合
医療法人におけるM&Aの事例
■個人病院の吸収合併
■医療・介護事業への事業譲渡
■介護老人保健施設での出資持分譲渡
医療法人でM&Aをするポイント
■デューデリジェンス対策を行う
■M&A完了までの期間に余裕をもつ
■関係者へ誠意のある説明を行う
■M&Aに関連するコストや税金を把握しておく
医療法人でのM&Aに関するよくある質問
■医療法人のM&Aにおける価値相場はいくらか?
■個人経営する病院でのM&Aはどのように対応すればよいか?
■M&A後に確定申告を忘れるとどうなるか?
医療法人でのM&Aは事業の維持や再生に効果的

 

医療法人のM&Aが注目されている背景

医療業界では後継者の不在問題や資金不足の解消、安定経営の実現をはかるためにM&Aが注目されている

医療業界では、M&Aが新たな解決策として注目を集めています。ここでは、医療法人でのM&Aがなぜ注目されているのか、その背景をお伝えします。

■後継者の不在が深刻化している

医療業界においても後継者不在の問題は深刻化しています。日本医師会総合政策研究機構の「医業承継の現状と課題」によると、病院や診療所などの66.5%が後継者を見つけられていないとされ、特に東北や北海道では90%以上の施設で後継者が不在というデータがあります。

また、医療法人を継承するには医師資格が必要となるため、他業種に比べて適切な後継者の確保が難しいというのが現状です。そこで、M&Aによる事業承継は、後継者の不在問題を解決できるものとして注目が集まっています。

■資金不足の解消や安定経営が図れる

医療法人がM&Aを検討したいもう一つの理由は、資金不足の解消と安定経営の実現です。例えば、老朽化した建物や設備の更新、医療報酬や薬価基準の引き下げによる収益の減少など、さまざまな経済的圧迫に対処するための手段の一つとして、M&Aが有効といえます。

M&Aにより、資金繰りの改善や経営基盤の強化が図れるため、医療サービスの質の維持や向上にも寄与します。このように、M&Aは医療法人にとって経済的な側面だけでなく、経営の安定化という面でも重要な選択肢といえるでしょう。

 

医療法人がM&Aをするメリット

医療法人のM&Aには経営者、従業員、患者それぞれにメリットがある

医療法人がM&Aを行うと、医療法人の持続可能性を高められるため、経営者、従業員、そして患者にとっても有益です。それぞれのメリットを確認していきましょう。

■後継者の問題を解消できる

医療法人における後継者不在は深刻な問題ですが、M&Aはこの課題を解決する有効な手段となります。なぜなら、M&Aにより廃業を避け、長年にわたり培われた事業の価値を維持することが可能となるからです。

また、経営者は後継者を探す手間や育成に関する負担から解放され、安心して引退を決断できるようになります。

■患者の利便性や従業員の雇用を守れる

M&Aは、患者の利便性を守り、医療難民を防ぐ効果もあります。医療法人が事業を継続することで、患者はこれまで通りの医療サービスを受け続けることが可能です。また、M&Aによって医療法人の従業員は引き続き雇用が保証され、職場環境の安定にもつながります。

■経営者の業務負担を軽減できる

M&Aを通じて、医療法人の経営に関する業務を売却先の組織に任せることができます。これにより、経営者は医師としての本来の業務に専念しやすくなり、医療の質の向上にもつながるでしょう。

特に、少人数で業務にあたっている場合や、年齢的な問題で業務負担が重くなっている場合に、M&Aは経営者の負担軽減に貢献するといえます。

 

医療法人がM&Aをするデメリット

医療法人のM&Aには、M&Aプロセスが長引いたり提供サービスの質が改善されなかったりなどのデメリットがある

医療法人がM&Aを検討する際には、多くのメリットがある一方で、注意したいデメリットも存在します。ここでは、M&Aによって生じる可能性のある問題点について解説します。

■M&Aに時間がかかる可能性がある

医療法人のM&Aプロセスは、予想外のトラブルにより予定よりも長引くことがあります。交渉過程での意見の相違や議決権の行使、価格設定に関する折り合いがつかない場合など、さまざまな要因が影響します。

一般的に、M&Aはスムーズに進んでも1年程度かかるといわれています。その要因は、複雑な交渉や法的手続き、各種調整に一定の時間を必要とするからです。そのため、医療法人のM&Aを進めるには、長期間における計画と準備が求められます。

■提供サービスの質が改善する保証がない

M&Aによる経営方針の変更は、必ずしもサービスの質の向上を意味するわけではありません。新たな経営体制のもとで、適切な人員配置や病床の確保が十分に行われない場合、サービスの質が低下する可能性もあります。

また、既存の従業員と新しい体制の従業員間での連携不足や、引き継ぎの不備が生じると、患者への影響や業務の効率性に問題が発生する可能性があります。勤務体系や管理体制の変更がスムーズに進まない場合も、サービスの質に影響を及ぼすこともあるでしょう。

 

【種類別】医療法人のM&Aのスキーム(手法)

医療法人のM&Aスキームは主に合併、分割、事業譲渡、出資持分譲渡の4つ

医療法人のM&Aには4つの手法が存在します。特に合併と分割は、主に採用されることが多いスキームです。

■医療法人を合併する場合

医療法人の合併には、吸収合併と新設合併の二つの方法があります。吸収合併では、一方の医療法人が他方を吸収し、全資産を承継します。一方、新設合併は、二つ以上の医療法人が、全財産を新しく設立される医療法人に移す手法です。合併の手順は次のように行います。

  1. 事前調査
  2. 合併契約の締結
  3. 合併決議
  4. 認可手続き
  5. 合併の周知
  6. 債権者保護手続き
  7. 登記

合併によって、人材や病床の再配置が可能となり、効率的な運営が期待できます。

■医療法人を分割する場合

分割には、吸収分割と新設分割があります。吸収分割では、一つの医療法人が事業の一部を別の既存医療法人に承継させ、新設分割では、新たに設立される医療法人に事業の一部を移します。分割は次のように行います。

  1. 吸収分割契約の締結または新設分割計画の作成
  2. 分割の決議
  3. 認可手続き
  4. 分割従業員への周知
  5. 債権者保護手続き
  6. 登記

分割により、特定の事業部門の効率化や特化が可能になり、全体としての経営資源の改善が図れます。

■医療法人の事業譲渡をする場合

医療法人が他の医療法人に事業の一部を譲渡する事業譲渡は、組織の効率化や特定のサービスの強化を目指す戦略です。事前の相談から始め、次のように進めていきます。

  1. 譲渡契約の締結
  2. 法人内決議
  3. 定款の変更
  4. 認可手続き
  5. 権利関係の移転
  6. 譲渡法人の廃止届提出

特に、地域医療構想に影響を及ぼす可能性があるため、事業譲渡に際しては行政との相談も欠かせません。事業譲渡により、医療法人は特定分野でのサービスの質を高め、リソースをより効果的に活用できるようになります。

■医療法人の出資持分を譲渡する場合

出資持分の譲渡は、医療法人の設立時に出資者が持つ財産権を他者に譲渡する手法です。手順は次の通りです。

  1. 出資持分の算定
  2. 譲渡契約の締結
  3. 役員の入れ替え

出資持分の譲渡は比較的迅速に行われることが多く、約1~2カ月で完了することも珍しくありません。ただし、2007年4月1日以降に設立された医療法人には出資持分が存在しないため、この手法は適用される医療法人が限定されます。

出資持分の譲渡により、医療法人は新たな投資を受け入れることができるため、経営基盤の強化や新たな事業展開が期待できるでしょう。

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吸収分割とはなにかを分かりやすく解説!新設や合併との違いや手続きの流れとは?

医療法人におけるM&Aの事例

医療法人におけるM&Aの事例をご紹介

医療法人におけるM&Aは、経営難に陥った医療機関の再生や事業の持続可能性の確保など、さまざまな目的で行われます。ここでは、具体的なM&Aの事例を紹介します。

■個人病院の吸収合併

「秀島病院」は、かつて個人病院としてバブル期に事業拡大を図りましたが、その後債務超過に陥りました。この危機的状況を救ったのが、「医療法人啓仁会」の支援による吸収合併でした。合併によって「秀島病院」は医療法人化し、新たな経営体制のもとで黒字経営を実現しました。

経営難にある個人病院が、ほかの医療法人によって救済された代表的な事例です。

■医療・介護事業への事業譲渡

2018年11月、「医療法人翔洋会」は負債を抱えて事実上の倒産に至りました。しかし、民事再生法の適用を受けて事業を継続する決断をしました。

その後、「公益財団法人ときわ会」と「医療法人社団ときわ会」が「医療法人翔洋会」から事業を譲り受けました。この事例からは、医療法人が経済的困難に直面した際に、事業譲渡が再生の一助となることが分かります。

■介護老人保健施設での出資持分譲渡

「医療法人甲会」では、高齢化した理事長の後継者問題が深刻でした。事業の継続を望んだ理事長は、M&Aを通じて出資持分の譲渡を選択します。

結果として適切な買い手が見つかり、医療法人としての法人格は存続されましたM&Aにより医療法人が地域医療サービスを維持できた事例です。

 

医療法人でM&Aをするポイント

医療法人がM&Aをする際のポイントは、デューデリジェンスの実施、余裕を持ったスケジュールの設定、関係者への説明、コストや税金の把握の4点

医療法人がM&Aを行う際には、いくつか重要なポイントがあります。デューデリジェンスの実施、余裕を持ったスケジュールの設定、関係者への説明、コストや税金の把握、の四点が主に挙げられます。

■デューデリジェンス対策を行う

M&Aでは、買収対象となる医療法人の監査、つまりデューデリジェンスが重要といえます。デューデリジェンスでは、労務問題や財務状況など、潜在的なリスクが評価対象です。

事前に社内の規定や給与体系を見直し、問題点を解消しておくことで、相手方の不信感を避け、よりスムーズな交渉が可能になるでしょう。また、積極的な情報提供や協力姿勢は、信頼関係の構築にもつながります。

■M&A完了までの期間に余裕をもつ

M&Aのプロセスは、予想以上に長引くことがあります。適切な買収候補の選定から交渉、最終合意に至るまで、数年を要するケースも少なくありません。現役で活動している関係者が引き続き対応できるよう、早めの計画立案と実行が求められます。

また、交渉が破談に終わるリスクもあるため、複数の候補と交渉を進めるなど、柔軟な対応が必要です。

■関係者へ誠意のある説明を行う

M&Aを進める過程で、関係者への透明性のあるコミュニケーションが不可欠です。特に、現在の課題やM&Aを行う必要性について、関係者が納得するまで丁寧に説明することが大切といえます。

また、M&Aによる経営方針の変更などが関係者の利害に影響を及ぼす場合、十分な配慮と説明が求められます。

■M&Aに関連するコストや税金を把握しておく

M&Aには、仲介業者への手数料や法務費用など、さまざまなコストが伴います。また、事業譲渡や持分譲渡による利益には税金が課される場合があるため、これらのコストや税金を正確に把握し、手元に必要な資金を確保しておくことが重要といえます。

さらに、M&A後に事業の成長を目的として広告費や仕入費等の先行投資を検討する場合には、「AD YELL(アドエール)※1」や「STOCK YELL(ストックエール)※2」といった分割・後払いできるサービス(BNPL※3)などを活用し、資金繰りを安定させることも重要です。

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医療法人でのM&Aに関するよくある質問

医療法人のM&Aに関するよくある質問への回答

ここからは、医療法人がM&Aを行う際に、抱きやすい疑問に回答いたします。

■医療法人のM&Aにおける価値相場はいくらか?

医療法人のM&Aにおける価値相場は、時価純資産と営業権の合計によって決まります。時価純資産とは、時価で評価された資産から負債を引いたもので、営業権は医療法人のノウハウや人材力などの無形資産を評価した額のことです。

一般的に、営業権の価値は直近3~5年間の業績を基に算出されます。具体的な計算例として、時価純資産が1億円、過去3年間の平均営業利益が2,000万円であれば、営業権を3~5倍と見積もり、総価値は1億6,000万円から2億円となり得ます。

■個人経営する病院でのM&Aはどのように対応すればよいか?

個人経営の病院がM&Aを行う場合、一般的には事業譲渡の形をとります。しかし、運営主体が変わることはできないため、まず病院を廃業し、その後新たな買い手が開業手続きを行うことが必要です。このプロセスを通じて、病院の運営は新たな医療法人に引き継がれます。

■M&A後に確定申告を忘れるとどうなるか?

M&Aの結果、医療法人が課税所得を得た場合は確定申告が必要です。確定申告を怠ると、延滞税や無申告加算税が課されるリスクがあります。

さらに、意図的な隠蔽が認められる場合は、重加算税が適用されることもあります。このため、M&Aを行う際には、税務署や専門の税理士に相談し、正確な税金の計算と申告を行うことが必要です。

 

医療法人でのM&Aは事業の維持や再生に効果的

医療法人でのM&Aは事業の維持や再生に効果的

医療法人でのM&Aは、持続可能な事業運営や後継者不在の解決策として有効な選択肢です。しかし、M&Aが完了するまでには時間がかかるため、計画的に余裕を持って取り組む必要があります。

また、キャッシュフローに余裕を持たせるために、M&Aにかかる仲介業者への手数料や法務費用、税金などのコストを把握しておくことも重要といえます。手続きを進行している間は、専門家からのアドバイスを受けることで、ミスを減らし、後悔のない決断を下すことができます。

医療法人が直面する課題の解決方法の一手として、地域社会への貢献を継続するために、M&Aの戦略的な活用を検討してみることをおすすめします。

 

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