吸収分割とはなにかを分かりやすく解説!新設や合併との違いや手続きの流れとは?

2024.04.08

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吸収分割とはなにかを分かりやすく解説!新設や合併との違いや手続き流れとは?

吸収分割は、事業承継の際に選択肢の一つとして考えられる手法です。吸収分割を行うと、後継者問題の解決や特定の事業への注力、事業の統合などが可能になります。

事業承継を検討している方のなかには、「吸収分割とそのほかの事業承継との違いは何か」、「会社の経営資源を活用して、事業を引き継ぐにはどうしたらいいのか」と、気になった経験があるのではないでしょうか。

本記事では、吸収分割の特徴やほかの組織再編方法との違い、メリット・デメリット、手続きの流れについて、詳しく解説します。また、吸収分割の実施が効果的な会社についても触れているので、自社が該当するか照らし合わせてみると、より理解が深まりやすいでしょう。ぜひ、お役立てください。

 

監修者

大久保 博之氏 / 司法書士

モットーはクライアントの権利を守ること。企業法務、商業法人登記に特化した事務所を経て、現在は不動産登記にも特化した事務所で様々な取引の名義変更に携わる。 遺言作成や家族信託等の財産整理業務から相続手続に至るまでクライアントをサポート。現在は司法書士法人河内事務所吉祥寺オフィスの責任者として活動。2024年8月16日に大久保綜合司法書士事務所を開設予定。

 

目次

吸収分割とは
吸収分割の方法
■分割会社が対価を受け取る「分社型吸収分割」
■株主が対価を受け取る「分割型吸収分割」
吸収分割以外の組織再編方法との違い
■新設分割
■吸収合併
■新設合併
■事業譲渡
■株式譲渡
吸収分割が効果的な会社の特徴
吸収分割をするメリット
■承継の事務手続きがシンプル
■手持ちの現金がない会社でも承継が可能
■組織の整理が可能
吸収分割をするデメリット・注意点
■株主構成変化の可能性
■人材流出の可能性
吸収分割の手続きの流れ
■1.吸収分割の意志を決定
■2.承継会社と吸収分割契約
■3.従業員へ吸収分割の通知
■4.事前開示書類の備置
■5.株主や債権者への対応
■6.登記申請
■7.事後開示事項の作成・備置
吸収分割で失敗しないためにおさえておきたいこと
■事前に吸収分割にかかる費用を把握する
■労働契約承継法に従い、従業員への配慮をする
■専門家のサポートを受ける
吸収分割は特定の事業に注力できる効果的な再編方法

 

吸収分割とは吸収分割とは、会社が自社の特定事業の権利義務の全部または一部を、別の会社に承継させること

吸収分割は、会社が自社の特定事業の権利義務の全部または一部を、別の会社に承継させる方法です。会社が特定事業への特化や集中を図る、新規事業を立ち上げる、あるいは、事業の売却を目的とした場合などに実施されます。さらに、企業再編の一環として、効率的な事業構造の実現を目指す場合にも用いられます。

吸収分割では、事業を分割する会社を「分割会社」とし、その事業を引き継ぐ会社を「承継会社」と称します。分割された事業は承継会社のものとなり、分割会社は該当事業から手を引くことになります。したがって、吸収分割を行うと分割会社は事業の特定部分の再編ができ、承継会社にとっては新事業を迅速に展開する機会を得ることになります。

分割を通じて、承継会社は事業価値に見合う対価を、現金や株式交換、株式移転などで分割会社に支払います。

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吸収分割の方法

吸収分割には主に「分社型」と「分割型」の二つの方法がある

吸収分割には「分社型」と「分割型」という二つの主要な方法があります。ここからは、それぞれの特徴を解説します。

■分割会社が対価を受け取る「分社型吸収分割」

分社型吸収分割は、特定の事業部門を別の法人へ移転し、その対価として現金や株式などを直接受け取る手法です。分割会社が事業を子会社化する際や、ほかの会社に完全に移管する際に採用されます。

旧商法では「物的吸収分割」とも呼ばれ、事業の戦略的再配置や経営資源の効率的な配分を目的としています。分割会社は、譲渡する事業の対価を受け取ることで、新たな資本を確保し、ほかの事業への再投資や経営の強化をすることが可能です。

■株主が対価を受け取る「分割型吸収分割」

分割型吸収分割では、対価の受け取り先は直接分割会社の株主となります。したがって、分割会社の株主が承継会社の株主になる可能性があり、その場合は、株主に直接利益が還元されることがポイントです。

分割型吸収分割は、直接、株主へ利益を分配することで、投資家からの信頼を得られる方法でもあります。また、分割会社は特定の事業から手を引くことで、経営資源をより重要な事業に集中させ、コア事業の成長に注力することが可能です。

 

吸収分割以外の組織再編方法との違い

組織再編の方法には、主に会社分割(吸収分割、新設分割)、合併(吸収合併、新設合併)、事業譲渡、株式譲渡がある

組織再編の方法は、主に会社分割(吸収分割、新設分割)、合併(吸収合併、新設合併)、事業譲渡、株式譲渡があります。ここからは、吸収分割以外の組織再編方法について、詳しく紹介していきます。

■新設分割

新設分割は、分割会社の事業の一部または全部を、別の新しく設立される承継会社に移転する方法です。分社型新設分割、分割型新設分割、共同新設分割の三つの形式があり、それぞれ対価の受け取り方や分割プロセスが異なります。

新設分割は、特定の事業を別の法人として独立させることで、より当該事業に特化した運営が可能になります。また、債権者の同意なしに資産や契約を新しい会社に移転できる点が特徴の一つです。

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新設分割で組織を再編!メリットから手続きの流れまで徹底解説

■吸収合併

吸収合併は、承継会社が分割会社の全ての権利義務を引き継ぎ、結果として、後者の会社が法的に消滅する方法です。事業の統合や経営資源の確保を目的として吸収合併が行われるため、市場での競争力を高めることができます。

■新設合併

新設合併は、複数の分割会社が事業の権利や義務を、新たに設立される承継会社に全て移転する方法です。新設合併により、新たな法人が誕生し、新しい企業文化や運営体制の下でビジネスが展開されることになります。なお、合併前の会社の法人格は消滅します。

新設合併では組織のスリム化が可能になるため、コスト削減や生産性の向上を目指せます。

■事業譲渡

事業譲渡は、分割会社が一部または全ての事業を承継会社に譲渡し、対価を受け取る方法です。事業の一部譲渡では、特定の事業単位や資産のみが譲渡されますが、全部譲渡の場合は全ての事業が対象となります。

事業譲渡は、特定の事業からの撤退や、新たな事業機会への投資資金の調達を目的として行われることがあります。事業譲渡を通じて、企業は経営資源の改善を図り、より収益性の高い分野に注力することが可能となります。

■株式譲渡

株式譲渡は、企業の株主が自社の株式をほかの企業や個人に譲渡する方法です。この方法では、譲渡された株式に対する権利、資産、負債、雇用契約、許認可などが全て承継会社に移転します。

株式譲渡は、企業の所有構造を変更することで、新たな経営戦略や投資を実現するために用いられます。株式譲渡を通じて、企業は新しい経営陣の下での成長や、事業のさらなる拡大を目指すことができます。

 

吸収分割が効果的な会社の特徴

吸収分割は後任となる人材が不足している場合や、予算の制約で特定の事業に集中したい場合に適している

吸収分割は、自社内に後任となる人材が不足している、または予算の制約で特定の事業に集中したい場合に適しているといえます。

例えば、「ソフトバンク株式会社」は経営効率化のために、アニメ専門配信サービスを「株式会社U-NEXT」に承継しました。この吸収分割により、「株式会社U-NEXT」の専門的なノウハウが反映され、アニメ専門配信サービスがさらなる成長を遂げました。

また、「株式会社ぐるなび」はスキー場情報事業を「株式会社インプレイ」に承継し、これにより中核事業である飲食店の販路支援により集中しやすくなりました。

こうした事例では、承継会社の専門性とリソースを活用することで、分割会社は中核事業に集中でき、経営効率を向上させています。吸収分割を成功させるには、事前の計画と戦略が不可欠であり、適切なパートナー選びが重要といえるでしょう。

 

吸収分割をするメリット

吸収分割の主なメリットは「手続きがシンプル」「対価を株式でも支払える」「組織構造を整理できる」の3点

吸収分割は、中核事業への集中や分割後の事業成長など、多くのメリットをもたらします。以下では、吸収分割の具体的な利点について解説します。

■承継の事務手続きがシンプル

吸収分割による事業承継は、従業員や取引先との契約などをそのまま継承できるため、手続きを簡略化することができます。従業員の同意を得る必要がなく、通知だけで済むため、スムーズに事業を移行することが可能です。また、特定の業種で必要な許認可も、新たに取得する手間を省けます。

■手持ちの現金がない会社でも承継が可能

吸収分割では、承継会社が対価を現金ではなく株式で支払うことが可能です。そのため、承継会社が現金を持っていない場合でも、新株発行を通じて吸収分割が可能になります。

承継会社は新株発行によって必要な資金を調達できるため、高い債務リスクを負うこともありません。

■組織の整理が可能

吸収分割は、会社の組織構造を効果的に整理する手段としても利用できます。特に、事業の分割を通じて、組織が複雑化している部分を簡素化することで、より効率的な運営体制を構築できるでしょう。また、採算性の低い事業部門を切り離すことで、全体の収益性の向上を図ることも可能です。

 

吸収分割をするデメリット・注意点

吸収分割では、経営方針や株価への影響、人材流出の可能性がある点に注意が必要

吸収分割は、企業再編の有効な戦略である一方で、慎重に検討および対応したほうがよいデメリットや注意点が存在します。

ここでは、吸収分割を進めるうえで考慮したい主なリスクと、その対策について解説します。

■株主構成変化の可能性

吸収分割では、承継会社の株主構成に変化が生じることがあります。分割会社の株主が承継会社の新たな株主となることで、既存の株主バランスが変動し、経営方針に影響を及ぼす可能性があるためです。

また、株主の理解を得られないまま吸収分割を進めると、株価が不安定になるリスクも考えられます。このような状況を避けるためには、事前に株主への丁寧な説明と合意を得ることが重要といえるでしょう。

■人材流出の可能性

吸収分割は、組織構造や企業文化が大きく変化することがあり、企業規模の縮小や事業部門の変更は従業員に不安を与えることがあります。不安が原因で、特にスキルや経験が豊富な従業員が退職すると、企業の業績にも悪影響を及ぼす可能性があります。

そのため、吸収分割を行う際は、従業員の待遇やモチベーションを維持し、人材流出を防ぐ対策が必要です。

 

吸収分割の手続きの流れ

吸収分割の手続きは大きく7ステップ

ここでは、吸収分割の際によくみられる手続きの流れを紹介します。事前に吸収分割の流れをつかみ、必要事項をお伝えします。

■1.吸収分割の意志を決定

吸収分割の手続きは、まず取締役会での決議から始まるのが一般的です。この段階で、吸収分割を進める意志が正式に決定されます。議事録には、実施日時、出席者、決議の内容を詳細に記載します。議事録には、決議の透明性と正当性を確保する役割があります。

■2.承継会社と吸収分割契約

次に、承継会社との間で吸収分割契約を締結します。契約書には、事業の商号、住所、承継する資産など、必要な項目を全て記載することがポイントです。その後、契約書は、取締役会の承認を経て正式に締結されます。

■3.従業員へ吸収分割の通知

従業員に対して、分割の時期、対象事業、新たな就業場所や業務内容など、分割に伴う重要な情報を通知します。これらは労働承継法に基づき、従業員への適切な情報提供が義務付けられており、従業員の権利保護に不可欠な情報です。

■4.事前開示書類の備置

契約の内容や、そのほかの法務省令で定められた事項を記載した事前開示書類を作成し、本社に備え置きましょう。この文書は、株主や関係者が吸収分割の詳細を確認できるようにするためのもので、透明性の確保に寄与します。

■5.株主や債権者への対応

吸収分割を進めるにあたり、株主総会での承認を得ることが必要です。反対する株主には、株式の買い取りを通じて対応します。また、債権者からの異議申し立てにも対処する必要があります。これらの対応は、ステークホルダーとの良好な関係を維持し、分割を円滑に進めるために重要なプロセスといえるでしょう。

■6.登記申請

分割が承認された後は、分割会社と承継会社が登記申請を行います。この申請は、吸収分割契約書で定められた効力発行日から2週間以内に行ってください。この登記により、法的に吸収分割が完了します。

■7.事後開示事項の作成・備置

最後に、手続きで確定した内容をまとめた事後開示事項を作成し、効力発生日から6カ月間、従業員などが確認できるように分割会社の本社に備え置きましょう。この開示は、分割の詳細を関係者に明確に伝え、透明性を高めるために行われます。

 

吸収分割で失敗しないためにおさえておきたいこと

吸収分割を成功させるには、適切に予算計画を立て従業員への配慮を行うことが大切

吸収分割には法的手続きが多く、費用が発生する場面がいくつかあります。ここでは、吸収分割を成功させるために重要なポイントをいくつか挙げます。

■事前に吸収分割にかかる費用を把握する

吸収分割を行う際には、さまざまな費用が発生します。自社で手続きを行う場合、登録免許税だけでも承継会社と分割会社で合わせて約6万円※1かかるとされています。

さらに、不動産の承継が伴う場合は不動産登録免許税が加わります。官報広告費用も7~8万円程度※1かかり、専門家に依頼すると約25万円※1からの手数料が発生するとされています。これらの費用について事前に情報を集め、適切に予算計画を立てるようにしましょう。

※1 いずれも2024年3月時点での相場となります。

■労働契約承継法に従い、従業員への配慮をする

吸収分割により、関連する事業部門の従業員の仕事がなくなる可能性があります。このような場合、労働契約承継法に基づき、従業員の理解と協力を得るための努力が必要です。従業員への事前通知や、新しい職務の提案などにより、不安を軽減し、円滑な移行をサポートすることが重要といえるでしょう。

■専門家のサポートを受ける

吸収分割の手続きには、多くの専門的な知識が必要です。コンサルティング会社、事業承継支援サービス、M&A仲介会社などは、承継会社探しや必要な書類作成のサポートを提供しています。例えば、「日本M&Aセンター」、「fundbook」、「M&Aキャピタルパートナーズ」などが挙げられます。

専門家によるサービスを活用することで、吸収分割に伴う業務負担を軽減し、書類上のミスを減らすことにつながります。

 

吸収分割は特定の事業に注力できる効果的な再編方法

吸収分割は特定の事業に注力できる効果的な再編方法

吸収分割は、特定の事業を承継会社に移行させることで組織を整理できるため、中核事業に専念できます。吸収分割を行う前には、残す必要のある事業への影響度を慎重に検討するようにしましょう。

また、吸収分割の手続きをスムーズに進めるためには、専門家のサポートを受けることが推奨されています。コンサルティング会社、事業承継支援サービス、M&A仲介会社などのサービスを総合的に活用し、吸収分割の成功につなげていきましょう。

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