スタートアップ企業の成長戦略として、M&Aが選択肢の常識に。課題や成功事例も紹介

2024.03.19

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スタートアップ企業の成長戦略として、M&Aが選択肢の常識に。課題や成功事例も紹介

企業成長の加速やEXIT戦略※1として、スタートアップ業界においてはM&Aが注目を集めています。IPOという選択肢もあるなか、EXIT戦略においてスタートアップ企業がM&Aを行うことにはどのようなメリットやリスク、または影響があるのかを事前におさえておきたいところです。

本記事では、M&Aの基本的な定義と目的、スタートアップ企業におけるM&Aの現状、IPOとの違いについて解説し、スタートアップ企業が直面する課題やM&Aを選択する際のメリット・デメリットを詳しく掘り下げます。

また、M&A成功のためのポイントや、実際のスタートアップにおけるM&A事例も紹介します。スタートアップ企業の経営者や、関係者の皆さんがM&Aをより深く理解し、自社の成長戦略に組み込むためにもぜひご活用ください。

※1 EXIT戦略とは、事業や投資から撤退し、利益を実現するための計画や方法であり、出口戦略ともいわれます。

目次

スタートアップ企業のM&Aとは
■M&Aの基本定義と目的
■M&AとIPOの違い
■スタートアップにおけるM&Aの現状
スタートアップ企業におけるM&Aの課題
■M&Aに詳しい人材の不足
■スタートアップ企業と買収企業の間で合意に至らない
スタートアップ企業がM&Aを選ぶメリット
■買収側の経営資源を活用して事業成長を目指すことができる
■赤字経営でもEXITできる可能性がある
■M&Aの成立によって短期間でEXITできる
スタートアップ企業がM&Aを選ぶデメリット
■買収される側のスタートアップ企業は経営権を失うケースがある
■M&AはIPOより売却額が低くなるケースがある
■従業員の流出や退職の可能性がある
スタートアップ企業のM&Aスキーム
スタートアップ企業のM&Aを成功させるポイント
■M&Aを行うタイミングを見極める
■M&Aでシナジーを得られる相手を見極める
■M&Aによる従業員への影響を考慮する
スタートアップ企業のM&A事例
■終活ねっと
■ソラコム
■スマートキャンプ株式会社
スタートアップ企業にとってM&Aは検討価値の高い戦略

スタートアップ企業のM&Aとは

M&Aとは企業の成長やEXIT戦略のためにスタートアップ企業が他社と合併したり、他社を買収したりすること

まず、M&Aの基本定義や、スタートアップがM&Aを行う目的を解説します。IPOとの違いや近年のスタートアップのM&Aの状況もおさえておきましょう。

■M&Aの基本定義と目的

M&A(Mergers and Acquisitions)とは、企業の成長やEXIT戦略のために、ベンチャーやスタートアップ企業が他社と合併したり、または他社を買収したりすることです。

成長戦略の観点から見ると、M&Aは、企業が自社内で不足している経営資源を補い、ビジネスの拡大を実現する手段といえます。例えば、技術力や市場参入への足がかりが不足している場合に、それらを持つ企業を買収することで、迅速に事業範囲を広げることが可能となります。

また、EXIT戦略としては、事業や企業の売却を通じて、起業家や投資家が投資のリターンを得る道となります。これにより、投資のリスクを分散させつつ、事業の創出から成長、売却に至るまでのプロセスで得られる利益の最大化を目指します。

このように、M&Aはスタートアップ企業が市場での競争力を高め、持続可能な成長を遂げるための戦略的選択肢として、大きな価値を発揮します。

■M&AとIPOの違い

スタートアップのEXIT戦略には、主にM&AとIPOの二つの選択肢があります。

IPOとは、企業が株式を公開し、広く公衆から資本を集めることを意味します。この方法では、企業経営者は引き続き株式を保有し、経営権を失うことはありません。一方で、M&Aは他社による買収を意味し、企業の経営権は譲渡されます。現状、日本では多くのスタートアップ企業がIPOを目指す一方で、M&AによるEXITの事例はそれほど多くありません。

結局のところ、スタートアップにとって適したEXIT戦略は、その目指す目標や成長の段階によって異なります。資金調達と経営権の維持を目指す場合は、IPOは特定の経営資源を得るため、M&Aは迅速なEXITを求める場合に適した選択といえるでしょう。

■スタートアップにおけるM&Aの現状

IPOが主流とはいえ、近年はM&Aを選択する企業も増加しています。この背景には、M&Aを通じたEXITを積極的に受け入れるベンチャーキャピタルが増えている状況があります。

スタートアップ企業にとって、M&Aは大企業とのシナジーを生み出す機会であり、事業の急速な拡大や、より効率的なリソース活用が可能となる手段です。大企業にとっても、発展途上のスタートアップ企業を取り込むことで成長の機会を創出できるなど、双方にとってメリットのある戦略といえます。

近年では、スタートアップ企業による老舗企業の買収も見られます。後継者不足や設備の老朽化に直面する企業にとって、経営の効率化や、新たな展開を可能にする好例となっています。

このように、M&Aはスタートアップに新たな成長の道を開く重要な選択肢として位置づけられています。

 

スタートアップ企業におけるM&Aの課題

スタートアップ企業におけるM&Aの主な課題は「M&Aに精通した人材の不足」「買収企業との合意形成がうまくいかない」の二つ

スタートアップ企業がM&Aを実現するにあたって、M&Aに精通した人材の不足や合意形成ができないなど、いくつか課題があります。

■M&Aに詳しい人材の不足

M&A活動が増加傾向にあるなか、スタートアップ企業にとってM&Aの専門知識を持つ人材の不足は大きな課題です。M&Aプロセスには、マッチング、交渉、契約書の作成といった、会計、税務、法律に関する深い専門知識が必要不可欠です。2018年にはM&A件数が3,850件に上りましたが、実際の取引を経験した人材はまだ少ないのが実情です。

M&Aを成功に導く基盤を築くためには、M&Aに精通した人材を新たに採用すること、または、関連講座や社外研修を通じて内部で人材を育成すること、さらには、外部のコンサルタントや専門家を積極的に活用することなどの解決策を検討した方がよいでしょう。

■スタートアップ企業と買収企業の間で合意に至らない

スタートアップ企業と買収企業との間でM&Aが成立しない主な原因には、将来の事業計画に関する見解の違いがあります。

この問題を解決する鍵は、両社の認識を明確にすり合わせることにあります。M&A交渉においては、「アーンアウト条項」や「株式対価M&A」の導入が有効です。アーンアウト条項とは、M&A取引において、買収対象となる企業が、将来特定の業績目標を達成した場合に、買手企業が売手企業やその株主に対して追加で買収対価を支払うことを約束する条項のことです。そのため、アーンアウト条項を用いることで、初期段階におけるバリュエーション※2の合意を容易にすることができます。

また、株式対価M&Aのようなアプローチを活用することも検討の価値があるでしょう。株式対価M&Aとは、現金の代わりに買収希望企業の自社株式を使って買収を進める方法で、評価額のギャップを埋める助けとなります。

※2 バリュエーションとは、企業や資産の価値評価のこと。

 

スタートアップ企業がM&Aを選ぶメリット

スタートアップ企業にとってM&Aは、企業成長やEXIT戦略面でメリットがある

スタートアップ企業がM&Aを選択する主なメリットを見ていきましょう。

■買収側の経営資源を活用して事業成長を目指すことができる

M&Aを成功させることで、スタートアップ企業は売り手先企業の豊富な経営資源を自社の成長に活かすことができます。活用できる経営資源は資金だけではありません。ノウハウや顧客ネットワークなども含まれるため、新しい事業領域への挑戦や既存の事業分野の拡大が可能になります。

例えば、買収先の技術力や販売チャネルを組み込むことで、市場での競争力を高め、スムーズな事業拡大が実現できるでしょう。

M&Aは企業成長のための有効な戦略であり、売買によって得られる経営資産を最大限に活用することが鍵となります。

■赤字経営でもEXITできる可能性がある

赤字経営の状態であっても、スタートアップ企業が持つ事業の将来性や技術力、市場でのポジショニングなどが魅力的であれば、M&Aを通じたEXITが可能です。買収を検討する側は、現在の財政状態よりも、企業が将来市場に与える影響力や成長の可能性を重視する傾向にあります。

IPOが難しい場合でも、M&Aが可能なケースは十分考えられるため、多くのスタートアップ企業や起業家にとって、実現可能なEXIT戦略として検討したい選択肢の一つといえるでしょう。

■M&Aの成立によって短期間でEXITできる

M&Aを活用したEXIT戦略は、IPOと比較すると準備期間が短く済むため、迅速に進められることが大きな利点です。買い手と売り手が合意に至れば、半年から1年で成立することが多く、場合によっては1カ月程度で完了することもあります。

これに対し、IPOの場合は、監査や審査など多くのステップを踏む必要があり、準備から公開までに少なくとも約3年はかかるとされています。

このため、スタートアップ企業にとって、M&Aはより早期に事業価値を現金化し、経営者や投資家にリターンをもたらす効果的な方法として注目されています。

 

スタートアップ企業がM&Aを選ぶデメリット

スタートアップ企業にとってM&Aには、経営件を失うケースや希望していた金額で取引できないケースがあるといったデメリットがある

スタートアップ企業にとってメリットの多いM&Aですが、デメリットもあります。M&Aが適切な戦略となるかどうかを判断するために、スタートアップ企業におけるM&Aのデメリットもお伝えします。

■買収される側のスタートアップ企業は経営権を失うケースがある

スタートアップ企業がM&Aによって買収される場合、経営権を手放すことになるケースもあります。この過程で、経営者は企業をEXITする機会を得ますが、その代わりに経営者としての役割や権限は失われます。買収された後に、元の経営者が買収企業の役員として経営に参加することは可能ですが、M&A以前のような経営者としての立場を保持することはできません。

さらに、経営から手を引くことを選んだ場合でも、競業避止義務のような一定の制約を受けることがあり、契約内容によっては、離職後も一定期間、競業行為にあたる活動の制限を受ける可能性があります。

■M&AはIPOより売却額が低くなるケースがある

M&Aを選択した場合、条件や状況次第ではありますが、創業者が得ることができる売却額は、IPOを行う場合に比べて低くなることがあります。企業の価値は買収希望起業の主観に左右される面があり、交渉時における企業の状況により価格の値下げを要求されることが多いためです。その結果、創業者の期待していた金額での取引が難しくなることがあります。

IPOによる利益も状況や条件により変動しますが、M&Aよりも幅広い投資家層からの資金調達が可能となり、企業の市場評価を高める機会を得られます。

このように、M&AはスピーディーなEXITを実現できる半面、条件や状況によっては得られる利益がIPOより低くなる可能性もあることを念頭においておきましょう。

■従業員の流出や退職の可能性がある

M&Aが成立すると、企業文化の変化によって従業員のストレスが増加し、流出や退職のリスクが高まることがあります。企業が大きくなることで個々の裁量が狭まったり、仕事の自由度が下がったりすることがあるため、従業員がM&A以前と同じようにやりがいを感じることが難しくなることがあります。

このような変化は、特に能力の高い人材の退職を招く可能性があり、事業にとって大きな損失につながる可能性があります。

スタートアップ企業がM&Aを検討する際には、従業員への影響を十分に考慮し、事前の準備や適切な対応策を講じる必要があります。

 

スタートアップ企業のM&Aスキーム

スタートアップ企業のM&Aスキームには主に合併、株式取得・資本参加、事業譲渡・資産買収がある

スタートアップ企業のM&Aスキームとは、事業拡大やEXIT戦略を実現するための計画や枠組みのことを指します。「スキーム」という言葉は、英語の「scheme」から来ており、「計画」や「枠組み」といった意味合いで使われることが多い傾向にあります。M&Aにおけるスキームは、M&Aで用いられる手法と、それを実行する一連の流れを総称しています。

スタートアップ企業が活用する代表的なスキームには、合併、株式取得・資本参加、事業譲渡・資産買収があります。合併では、複数の企業が一つになり新しい企業を形成します。株式取得・資本参加は、株式の売買を通じて他社の経営権を取得し、子会社化や増資を行う手法です。事業譲渡・資産買収では、特定の事業に関連する資産や負債を合わせて、対象の企業に移転します。

これらのスキームを活用することで、より効果的に成長の機会を追求し、戦略的な目標を達成することが可能になります。

スタートアップ企業のM&Aを成功させるポイント

スタートアップ企業がM&Aを成功させるにはタイミングや相手の見極めが大切

スタートアップ企業がM&Aを成功させるためには、タイミングや相手の見極め方などさまざまなポイントがあります。

■M&Aを行うタイミングを見極める

スタートアップ企業のM&Aを成功させ高値で売却するためには、タイミングの見極めが重要視されています。事業が成長途上である段階、つまり将来性が期待される段階で売却することが望ましいとされています。このタイミングに売却することで、企業のポテンシャルを買い手が高く評価し、結果として買収金額が上がる可能性が高まります。

一方で、事業が成熟期に入ってしまうと、成長の余地が限られていると見なされ、買収額が思うように伸びないことも多いようです。

■M&Aでシナジーを得られる相手を見極める

M&Aにおける成功の鍵は、自社との相性が良く、シナジー効果を発揮できる企業を見極めることにあります。シナジー効果には、経営統合を通じて双方の売上が合算され、全体の売上が大きく増加するケース、設備の稼働率の向上や拠点の統合によってコストが削減されるケース、また、互いのノウハウの共有が新たな企業成長を促すケースなどが考えられます。

このように、シナジー効果はM&A後の成長に直接的に寄与するため、自社のポテンシャルを大きく引き出せる企業を選定することが大切となるのです。

■M&Aによる従業員への影響を考慮する

M&Aを進めるにあたり、従業員への影響を慎重に考慮することも必須です。特に、M&Aの情報を従業員に伝えるタイミングや方法には、細心の注意を払う必要があります。従業員にとって、M&Aは働く環境が根本から変化する大きな出来事であるため、その心情を配慮したフォローをするとよいでしょう。

重要な役割を果たしている従業員や、社外との重要な窓口である人材に対しては、さらに丁寧に早期の段階から情報を共有し、フォローを行うことが望ましいといえます。対応が不十分だと、M&A後の職場へのなじみにくさやモチベーションの低下、最悪の場合は離職につながる可能性があります。

M&Aを進めるにあたって、従業員への情報共有と心情への配慮を欠かさないようにしましょう。

 

スタートアップ企業のM&A事例

スタートアップ企業のM&A事例3選

ここからは、スタートアップ3社のM&A事例を紹介します。

■終活ねっと

株式会社終活ねっとは、2016年9月に当時現役の東京大学の学生が創業したスタートアップです。2018年10月にDMM.comとの間で資本業務提携契約を結び、DMMが終活ねっとの発行済み株式の51%を取得し、子会社化したことにより、企業は大きな転機を迎えることになりました。このM&Aによって、終活ねっとの創業者は経営陣から退任し、その後はエンジェル投資家として新たなキャリアを築いています。

この事例から、スタートアップ企業が成長フェーズにおいてM&Aを戦略的に活用することで、企業価値を高め、さらなる成長へとつながる可能性のあることが分かります。また、創業者にとっても、M&Aは事業を次のステージへと導く手段であり、自身のキャリアにおいても、新たな道を開く契機にもなり得ます。

終活ねっととDMM.comの提携は、M&Aがもたらす複数の利点とポテンシャルを具体的に示す貴重な例といえるでしょう。

■ソラコム

株式会社ソラコムは、2017年8月にKDDIにより連結子会社化された事例です。創業からおよそ2年半という短期間にもかかわらず、約200億円という金額での買収は、スタートアップ業界における大きな成功事例といえるでしょう。

このM&Aは、ソラコムの提供する技術と市場での成長可能性を、KDDIが高く評価した結果によるものであり、スタートアップ企業がイノベーションを通じてどれだけの価値を創出できるかを示す実例となっています。

この事例から、戦略的なM&Aがスタートアップの加速度的な成長と、その技術やサービスの幅広い展開につながる可能性を示しています。

■スマートキャンプ株式会社

スマートキャンプ株式会社は、SaaSメディア「BOXIL」を運営しており、マネーフォワードが株式の72.3%を取得し子会社化しました。このM&Aの背景には、マネーフォワードが自社の会計SaaSサービス「Money Forward」への集客に「BOXIL」の効果を高く評価したことがあります。

「BOXIL」を通じて、マネーフォワードはより多くの顧客にアプローチすることが可能になり、サービス拡大に向けた大きな一歩を踏み出すことに成功しました。

スマートキャンプのM&Aは、マネーフォワードにとって集客戦略を強化し、サービスの市場拡大を図るうえで戦略的に重要なステップであったといえるでしょう。

スタートアップ企業にとってM&Aは検討価値の高い戦略

スタートアップ企業にとってM&Aは検討価値の高い戦略

スタートアップ企業のM&Aは、EXIT戦略の一環として増加傾向にあり、その成功は適切なタイミングと相手の選定、さらには交渉の進め方に依存します。M&Aのメリットの最大化を目指し、デメリットを最小限におさえるためには、シナジー効果をもたらす企業との提携を目指すことが重要といえるでしょう。

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