Rule of 40とは?基準の意味から経営改善の手法まで解説
Rule of 40は投資家がSaaS企業を評価する際に使用する指標です。企業にとっても今後の経営戦略の策定に役立つため、注視しておきたい指標といえます。本記事では、Rule of 40について、意味やRule of 40を達成するための具体的な経営の改善方法を解説します。
目次
Rule of 40とは SaaS企業向けの経営指標 海外と日本では認識に違いがある Rule of 40が評価の指標として活用される理由 事業の本質を分析できるため 経営のバランスが判断できるため Rule of 40をクリアした国内企業 株式会社プラスアルファ・コンサルティング 株式会社スマレジ 株式会社ラクス rakumo株式会社 株式会社WACUL Rule of 40のクリアを目指した具体的な経営改善法 競合にはない自社の強みを強化する 人材の確保・定着に努める 適切なタイミングで資金調達を行う 利益の適切な使い道を見極める Rule of 40以外におさえておきたい企業の評価指標 CAC回収期間 ユニットエコノミクス Rule of 40を達成して企業の成長促進につなげよう
「Rule of 40」は、SaaS(※1)企業の経営状態を評価する指標の1つです。Rule of 40を達成している企業は健全な経営がなされていると判断されるため、資金調達時にも役立てられます。
本記事では、Rule of 40が活用されている理由や達成するための具体的な経営改善方法を解説します。実際に基準をクリアしている企業事例も紹介するため、事業の見直しをする際にぜひお役立てください。
※1 クラウドサーバーにあるソフトウェアを、インターネットを経由してユーザーが利用できるサービスのこと。
Rule of 40とは

Rule of 40はどのような指標なのか、まずは基本を解説します。海外と日本における認識や活用方法の違いについても解説します。
SaaS企業向けの経営指標
Rule of 40は、SaaS企業の経営状態を評価するための指標です。成長性と収益性の両方を評価できる点から、投資家が企業へ投資する際の判断材料の1つとされています。
一般的に直近の会計年度の数値をベースに計算し、「企業の売上高の成長率+営業利益率」が40%を超えていると経営が健全であるとみなされ、金融市場で高い評価を受けやすくなります。
SaaS企業の特に初期フェーズは、そのビジネスモデルから赤字になりやすい傾向にあります。そのようななか、Rule of 40の指標を使うことで、将来の成長性や収益性を評価することができます。
海外と日本では認識に違いがある
海外では、Rule of 40は創業から6年以上経過したSaaS企業に適用することが推奨されています。一方、日本では海外のように一律に適用されることはありません。これは、日本におけるSaaS企業の数が限られており、まだ十分なデータや事例がないことから一律に判断できないためです。
そのため、日本では40%ルールだけではなく、ほかの経営指標も活用しながら、多角的に企業の評価を行う傾向があります。単に「Rule of 40を達成すること」に注力するのではなく、成長性や収益性のバランスを重視した経営戦略を実行することが重要といえるでしょう。
Rule of 40が評価の指標として活用される理由

企業を評価する指標として、なぜRule of 40が活用されているのでしょうか。Rule of 40のメリット面から、その理由を解説します。
事業の本質を分析できるため
SaaS企業は、特に創業初期に行う認知度向上のためのマーケティングや、サービス強化のための投資費用が高額になりがちで、赤字になることが多い傾向にあります。しかし、このような先行投資による赤字の場合は、一概に「赤字だから経営状態が悪い」という判断はできません。
そこでRule of 40が活用されます。Rule of 40をクリアしていれば、帳簿上で赤字だとしても、成長性と収益性のバランスが取れており、将来的に利益が見込める事業であると予測されます。
投資家に対しても、Rule of 40を達成していれば、現状が赤字であっても将来性がある点をことをアピールできるため、資金調達時にも役立ちます。
経営のバランスが判断できるため
Rule of 40は、企業の成長率と営業利益率を同時に評価する指標です。つまり、経営が成長性に偏りすぎていないか、収益性が犠牲になっていないかなど、経営のバランスの偏りを確認できます。
例えば、営業利益がマイナスだとしても、成長率との合計が40%を超えていれば、事業も許容範囲内にあるとみなされます。今後、営業利益率の改善が進めば、さらに健全な経営が期待できるため、バランスの取れた成長を遂げる企業だと判断してもらいやすくなります。
Rule of 40をクリアした国内企業

日本国内でRule of 40の基準をクリアしている企業を紹介します。
株式会社プラスアルファ・コンサルティング
株式会社プラスアルファ・コンサルティングは、データの可視化を支援するシステムの提供を通して企業の効率的な運営をサポートしている企業です。売上高の成長率と営業利益率の合計が78%に達し、Rule of 40をクリアしています。
2024年7月には、三菱総合研究所と業務提携を結ぶなど、さらなる成長が期待されています。
株式会社スマレジ
株式会社スマレジは、クラウドPOSレジを提供している企業です。特に、キャッシュレス化の進展に対応したサービスが特徴的であり、店舗の効率化や顧客管理を支援しています。現在44,000店舗以上で導入されるなど、国内でも高い指示を得ているサービスといえます。
売上高の成長率と営業利益率の合計は71%とRule of 40をクリアしています。近年急成長を遂げている企業の1つです。
株式会社ラクス
株式会社ラクスは、経費精算や請求書発行などのクラウドサービスを提供している企業です。企業の業務効率化の支援サービスが支持され、売上高は2020年から2024年にかけて3倍以上になるなど著しい成長を遂げています。
売上高の成長率と営業利益率の合計は50%に達しています。営業利益率は1桁台と高い数値ではありませんが、こちらは積極的なマーケティング施策の実施という戦略をとっていることが背景にあると考えられます。今後も安定した成長が期待される企業として注目されています。
rakumo株式会社
rakumo株式会社は、Google Workspaceと連携可能なクラウド拡張ツールを提供し、企業の業務効率化をサポートしている企業です。売上高の成長率と営業利益率の合計が47.2%とRule of 40を達成しています。
営業活動によるキャッシュフローは、2019年12月から2023年12月までに3倍以上に成長しており、近年めざましい成長を遂げています。
株式会社WACUL
株式会社WACULは、企業のマーケティング戦略策定から施策の実装までを総合的にサポートする事業を行っています。売上高の成長率と営業利益率の合計は45.3%と40%を超えています。
純利益は2022年から2024年まで横ばいの状況ですが、依然として安定した成長を見せており、今後のさらなる改善が期待されます。
Rule of 40のクリアを目指した具体的な経営改善法

Rule of 40をクリアするための具体的な経営改善方法を紹介します。自社の戦略策定の際にお役立てください。
競合にはない自社の強みを強化する
現在は競合より優れたサービスを提供できていたとしても、将来的に模倣される可能性があります。そのため、今後も市場において競争優位性を保つには、ターゲティング戦略なども駆使しながら自社の独自性や強みをさらに強化していくことが大切です。
他社との差異化を図ることで、売上高の維持や成長を目指すとともに、Rule of 40に関わる営業利益率の向上も期待できます。
人材の確保・定着に努める
経営者がどれだけ画期的なアイデアを持っていても、従業員の協力がなければ大きな成果にはつながりません。積極的に協力してもらえるよう、従業員のモチベーションを高める施策にも力をいれたいところです。例えば、福利厚生や職場環境の改善など、待遇面の見直しをしてみましょう。
働きやすい環境は、従業員の定着だけでなく、新規の人材確保においても有利に働きます。優秀な人材を確保できれば、サービスの質の向上や営業拡大につながり、企業のさらなる成長にも寄与します。
売上高と営業利益率の向上により、Rule of 40の達成も見えてくるでしょう。
適切なタイミングで資金調達を行う
事業の成長・拡大には資金が必要です。特に、スタートアップ企業は投資ラウンドに応じた資金調達を行っていく必要があります。適切な時期に資金調達を行うことで資金に余裕が持てるため、新サービスの開発やリリースなど企業の成長を促進する施策も打てるようになります。
そのために、日頃から資金繰り表を作成しておくといいでしょう。将来の出費を「見える化」し備えることで、計画的な資金調達が可能になります。
設備投資など、事業拡大に伴い一時的に赤字が見込まれる場合や資金繰りが悪化する兆候がある場合は、早めに行動することで財政を安定させ、Rule of 40を達成しやすくなります。
関連記事:
資金繰り表の基本から分かりやすいつくり方・活用法まで徹底解説
利益の適切な使い道を見極める
米国企業が高い利益を上げている理由の1つに、利益を積極的に研究開発やイノベーションの促進のために投資していることが挙げられます。一方、日本の特に大企業は、利益を得ても使い道が定まらず内部留保が増える傾向にあります。
SaaS企業は無形資産で稼ぐビジネスであり、利益を事業拡大に回すことが成長に直結するといっても過言ではありません。また、顧客の母体数を増やすためには、日本市場だけでなく、世界市場への展開を視野に入れた投資も必要です。
得た利益を適切に活用し、事業成長を促進することがRule of 40の達成にもつながります。
Rule of 40以外におさえておきたい企業の評価指標

前述した通り、投資家はRule of 40だけでなく、他の経営指標を用いて多角的に企業状態を判断します。本記事ではRule of 40以外に注視しておきたい経営指標として、CAC回収期間とユニットエコノミクスについて解説します。
CAC回収期間
SaaS企業におけるCAC(※2)回収期間は、顧客集客にかかった費用(Customer Acquisition Cost)をどれだけの期間で回収できたかを示す指標です。次の式で計算できます。
CAC(1顧客の集客コストの総額)÷(1顧客の平均売上金額×売上総利益)
回収期間が短いほど、企業の評価は高くなります。
一般的にCAC回収期間は6カ月〜12カ月が目安とされ、この期間内で回収できている企業は健全な経営がなされているとみなされます。
※2 「Customer Acquisition Cost」の略語。顧客一人あたりの集客に必要な費用。
ユニットエコノミクス
ユニットエコノミクスとは、企業が一人の顧客から得られる経済的価値を表した数値、つまり「顧客一人当たりの採算性」を測る指標です。ユニットエコノミクスを改善することで企業の収益性が向上し、Rule of 40の達成にもつながります。ユニットエコノミクスは次の式で計算できます。
LTV(顧客生涯価値)÷CAC(1顧客の集客コストの総額)
比率が3以上であれば、採算性が高いと判断できます。LTV(※3)は顧客ごとにばらつきがあるため、中央値を用いて計算することが一般的です。
ユニットエコノミクスを活用することで事業の効率性を把握し、持続可能な成長を促進することができます。
※3 「LTV(Life Time Value)」は、企業と顧客が継続的に取引を行うことにより顧客が生涯を通じて企業にもたらす利益のこと。一般的には顧客が商品やサービス、企業に対する愛着(顧客ロイヤルティ)が高い企業ほどLTVが高まりやすくなる。
Rule of 40を達成して企業の成長促進につなげよう

Rule of 40は、SaaS企業にとって重要な評価基準です。「企業の売上高の成長率」と「営業利益率」の合計が40%を超えているかどうかで企業の健全性を判断します。
Rule of 40は経営戦略を立てる際に活用でき、また、資金調達の際に投資家が注視する指標でもあるため、SaaS企業にとってはRule of 40の達成は1つの目指したい目標といえるでしょう。
SaaSのビジネスモデルでは、特に初期フェーズにおいて投資から売上が立つまで時間がかかり資金繰りが課題になるケースが多い傾向にあります。事業を持続的に成長させ、またRule of 40を達成するには、キャッシュフローの改善もポイントとなります。
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*「担保・連帯保証不要」は原則であり、場合によってはその限りではありません。ご了承くださいませ。