資本性ローンとは?メリットや課題、適用条件などをまとめて解説
この記事では、資本性ローンの活用を検討しているスタートアップ企業や経営者に向けて、資本性ローンの概要や活用するメリットを解説します。資本性ローンの適用条件や活用する際の課題も解説するので、ぜひ参考にしてください。
目次
資本性ローンとは 企業を支援する融資形態の一つ 資本性ローンは公庫や民間金融機関で提供されている 資本性ローン(挑戦支援資本強化特別貸付)の種類 資本性ローンを活用するメリット 元本を事業に活用できる 担保や保証人が不要なケースが多い 経理上では「資本」と見なされる 業績に応じて金利負担を軽減できる 【国民生活事業】資本性ローンの概要 対象者 融資条件 資金使途・限度額・返済期間・利率 【中小企業事業】資本性ローンの概要 対象者 貸付条件 資金使途・限度額・返済期間・利率 資本性ローンを活用する際の課題 金利の変動リスクがある 元金は一括返済に限られる 書類の提出や報告が求められる 資本性ローン以外のスタートアップ向け資金調達方法 長期視点での成長戦略に資本性ローンを活用しよう
資本性ローンは、企業の財務体質強化や資金調達円滑化をサポートする融資形態の一つです。特にスタートアップ企業や経営者にとっては、自己資本と同等の扱いを受けるため、財務バランスを維持しつつ新たな資金を調達する有効な手段となります。
本記事では、資本性ローンの基本的な概要や活用する際のメリット、条件を具体的に解説します。資金調達方法の一手段として、ぜひ参考にしてください。
資本性ローンとは

まずは資本性ローンとは何か、定義や種類など基本を解説します。
企業を支援する融資形態の一つ
資本性ローンは、企業の財務体質を強化し、円滑な資金調達をサポートする融資形態の一つです。通常のローンと異なり、元金の返済は5年1カ月以上先の指定されたタイミングで一括返済します。毎月の返済負担がないため、資金繰りの安定にも効果的といえます。
一般的な負債よりも支払い順位が劣るローンという意味で「資本性劣後ローン」と呼ばれることもあり、金融機関からは「資本」とみなされます。
特に、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けた企業やスタートアップ企業に適用されるケースが多く、資金繰りの安定と財務改善に役立てられています。
資本性ローンは公庫や民間金融機関で提供されている
資本性ローンというと、主に日本政策金融公庫が提供する「挑戦支援資本強化特別貸付」サービスを指すことが多いですが、SBI新生銀行の「サステナブルインパクト資本性ローン」や京葉銀行の「資本性劣後ローン」など、民間金融機関でも提供されています。
日本政策金融公庫による資本性ローンには「挑戦支援資本強化特別貸付」のほか、「新型コロナウイルス感染症対策挑戦支援資本強化特別貸付(新型コロナ対策資本性劣後ローン)」があります。こちらは新型コロナウイルス感染症の影響を受けてた中小企業者に資金を提供し、財務体質強化を支援することを目的としています。
このように一口に資本性ローンといっても、その種類はさまざまです。本記事では、主要な資本性ローンである、日本政策金融公庫の「挑戦支援資本強化特別貸付」について解説していきます。
資本性ローン(挑戦支援資本強化特別貸付)の種類
日本政策金融公庫が提供している資本性ローン(挑戦支援資本強化特別貸付)は、「国民生活事業」と「中小企業事業」の2種類です。事業の特性や用途に応じて選択できるため、事業フェーズも鑑みながら検討していきましょう。
例えば、創業後間もないシード期のスタートアップ企業には、設備資金や運転資金の調達に適した「国民生活事業」が適しているといえます。一方、アーリー期以降の成長段階にあるスタートアップ企業には、新規事業への資金活用が可能な「中小企業事業」が適しています。
| 国民生活事業 | 中小企業事業 | |
| 対象者 |
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| 貸付条件 |
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| 資金使途 | 該当する融資制度に定める設備資金および運転資金 | 新規事業や経営改善、企業再建 |
| 限度額 | 7,200万円 | 1社当たり10億円 |
| 返済期間 | 5年1カ月以上20年以内 | 5年1カ月または6年から20年までの各年 |
※参考:挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)(日本政策金融公庫)
資本性ローンを活用するメリット

スタートアップ企業が、資金調達の一手段として資本性ローンを活用するメリットを解説します。
元本を事業に活用できる
一般的な融資では、借り入れた元本と利息を定期的に返済する必要があるため、その返済額分は事業資金として活用できません。例えば、1億円の借り入れに対して毎年1,000万円の元本返済が必要な場合、この1,000万円分は事業に活用できない資金となります。
しかし、資本性ローンは5年以上先の決められた返済日までは、利息のみの返済で済みます。返済期限までは、元本全額分を自由に事業に充当できることになるのです。
元本を事業に活用できる資本性ローンは、成長資金を確保したい企業にとって有用な手段といえるでしょう。
担保や保証人が不要なケースが多い
資本性ローンの申し込みにあたっては、担保や保証人が不要なケースが多い傾向にあります。通常の融資では、業績が浅かったり業績が安定していなかったりする企業に対する融資はリスクが高いため、担保や保証人を求めることが一般的です。
しかし、資本性ローンは企業の財務体質強化が目的です。そのため、経営者が事業に集中できるように、担保や保証人といった負担を軽減するように設計されています。
資金調達のハードルが下がる点は、スタートアップ企業にとって大きな魅力です。
経理上では「資本」と見なされる
資本性ローンは、借入金でありながら経理上は「資本」として扱われます。自己資本比率が向上するため、財務体質の強化にも寄与します。
通常の融資審査では自己資本の金額が重視されるため、自己資本が少ないと信用性が低いと判断されやすく、融資につながらないケースが多い傾向にあります。資本性ローンは自己資本の増強につながるため、信頼性の向上、ひいては追加融資を受けられる可能性も高まると期待できます。
日本政策金融公庫では、資本性ローン証明の発行も可能です。金融機関で融資を申請する際に添付書類とすることで、「資本性ローンの審査に通った企業」として審査で有利に働く可能性もあります。
業績に応じて金利負担を軽減できる
資本性ローンは、柔軟な返済条件を設定できるため、業績に応じて金利負担を軽減できるという特徴があります。
返済負担が大きいとキャッシュフローが圧迫され、事業運営に悪影響を及ぼすことがあるかもしれません。資本性ローンなら、例えば業績が悪化した時には、適用金利を下げられる可能性があります。企業のキャッシュフローに合わせた返済が可能になる点は、大きなメリットといえるでしょう。
特に、先行投資が多く一時的な赤字が生じやすいスタートアップ企業にとって、金利負担の軽減が期待できる資本性ローンは、検討価値の高い手段となります。
【国民生活事業】資本性ローンの概要

日本政策金融公庫が提供する資本性ローンのうち、「国民生活事業」について対象者や要件などを詳しく解説します。
対象者
「国民生活事業」の資本性ローンを利用できるのは、法人または企業に限られており、また次の1と2の条件を全て満たしている必要があります。
【1.融資制度:次の(1)から(6)までのいずれかの融資制度の対象となる方】
- 新規開業資金
- 新事業活動促進資金
- 海外展開・事業再編資金
- 事業継承・集約・活性化支援資金
- 企業再建資金
- ソーシャルビジネス支援資金
【2.その他条件:次のすべての要件も満たす方】
- 地域経済活性化にかかる事業を行うこと
- 税務申告を1期以上行っている場合、原則として所得税等を完納していること
※参考:挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)(日本政策金融公庫)
融資条件
資本性ローンの融資を受けるには、申し込み時に日本政策金融公庫に対して詳細な事業計画書の提出が必要です。また、完済までの間は四半期ごとの経営状況報告など、金融機関と特約を結び、経営状態を継続的に共有する義務があります。
売上や利益の推移、資金運用状況を報告することで、資本性ローンの目的である財務体質強化と事業安定化をサポートしてもらえます。
資金使途・限度額・返済期間・利率
資金使途は、該当する融資制度に定める設備資金および運転資金に限られます。融資限度額は最大7,200万円、返済期間は5年1カ月以上20年以内です。返済期間は幅広く設定されているため、企業の成長や資金計画に応じて柔軟に対応することが可能です。
利率は融資後1年ごとに直近の業績に応じて、返済期間ごとに2区分の利率が適用されます。

※画像引用:挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)(日本政策金融公庫)
業績に合わせた金利負担が可能な点からも、企業の財務安定性を支える仕組みが整っていることが分かります。
【中小企業事業】資本性ローンの概要

次に資本性ローンのもう一つの柱である、「中小企業事業」について解説します。
対象者
「中小企業事業」の資本性ローンを利用できるのは、次の条件を満たす法人または企業に限られます。
- 新規事業、経営改善、企業再建などに取り組む方
- 地域経済の活性化のために、一定の雇用効果が認められる事業、地域社会にとって不可欠な事業、技術力の高い事業などに取り組む方
- 新企業育成貸付、企業活力強化貸付または企業再生貸付の適用要件を満たす方
※参考:挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)(日本政策金融公庫)
地域社会への貢献や、企業の成長意欲を支援するための資金調達方法として活用できる制度となります。
貸付条件
「国民事業」と同様、四半期ごとに経営状況の報告などを含む特約の締結が必要です。また、日本政策金融公庫が適切と判断する内容の事業計画書を提出することも求められます。
企業の状況を適切に把握することで、財務体質強化と持続的な事業運営の実現をサポートすることが目的です。
資金使途・限度額・返済期間・利率
「中小企業事業」の資本性ローンは、新規事業や経営改善、企業再建などの資金として活用できます。融資限度額は1社当たり最大10億円、返済期間は5年1カ月または6年から20年までで、期限一括償還が基本です。
利率は貸付後1年ごとに見直され、直近決算の業績に応じて2区分が適用されます。

※画像引用:挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)(日本政策金融公庫)
長期的な視点から事業成長を支援してもらえる制度となっています。
資本性ローンを活用する際の課題

資本性ローンは、特にスタートアップ企業にとってメリットの多い制度ですが、活用にあたっていくつか注意しておきたい点もあります。資本性ローンを検討する際におさえておきたい課題について解説します。
金利の変動リスクがある
資本性ローンの金利は変動制のため、一般的な融資よりも高めの金利が設定されるケースが多い傾向にあります。企業の業績に応じて金利負担を柔軟に変更できるため、業績が低調な場合は、金利負担も軽減されます。しかし一方で、業績が良好な場合は金利が高くなります。
例えば、スモールビジネスなど着実に利益が出ていくビジネスモデルでは、金利負担が高くなる可能性が高いため、資本性ローンの活用は逆に負担が大きくなることも考えられます。
業績次第で金利が変動するシステムは、メリットだけでなくリスクとなる可能性がある点に注意が必要です。事業計画や将来の収益予想を元に、慎重に判断する必要があるでしょう。
元金は一括返済に限られる
一般的なローンの場合、元金の繰り上げ返済が可能なケースが多い傾向にあります。しかし資本性ローンは、返済期限日での一括返済しかできません。これには、資本性ローンの目的が企業の財務体質を強化し、自己資本比率を高めることにあることが関係しています。
元金を繰り上げ返済すると自己資本が減少し、資本増強の効果が損なわれてしまいます。そのため、一括返済が原則とされているのです。
長期的な成長を目指す企業にとって、一括返済条件は財務の安定化に寄与する一方、返済日に備えて計画的な返済準備が必要という課題にもなります。
書類の提出や報告が求められる
前述したとおり、資本性ローンの申請には事業計画書の提出が必須です。これは借り入れを行う企業について、リスク評価や資金使途の明確化、信用性を判断する材料として活用されます。審査に通過するには、資本性ローンを申込む目的を明確にして、返済計画について根拠立てた説明をすることがポイントです。事業計画書のつくり込みという、入念な準備が必要となるでしょう。
また、契約後も四半期ごとに経営状況の報告が必要となります。経営状況の報告は、定期的なモニタリングや課題の早期発見に役立てられます。
必要書類の用意には手間や時間がかかることを念頭においておいた方がいいでしょう。
資本性ローン以外のスタートアップ向け資金調達方法

スタートアップ企業が検討できる資金調達方法は資本性ローンだけではありません。出資を募る方法や金融機関からの融資、助成金や補助金の活用など、その方法は多岐に渡ります。
前述したように、ビジネスモデルや事業の特性によっては資本性ローンが有用とはいえないケースもあります。企業の持続的な成長のためには、自社の状況に適した資金調達方法を選択することが大切です。
例えば、資本性ローン以外でスタートアップ企業の選択肢となってくる資金調達方法や資金調達に代わる方法には次のようなものがあります。
| 資金調達方法 | 例 |
|---|---|
| エクイティファイナンス |
|
| デットファイナンス |
|
| ベンチャーデット |
|
| そのほか |
|
事業フェーズによっても選択できる手段が変わってくるため、事業計画に基づいて適切な資金調達戦略を作成していきましょう。
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長期視点での成長戦略に資本性ローンを活用しよう

本記事では日本政策金融公庫が提供している資本性ローンについて解説しました。日本政策金融公庫の資本性ローンは、財務体質強化や円滑な資金調達を支援することを目的とした融資形態の一つです。
担保や保証人が不要で、経理上「資本」として扱われるため自己資本比率の向上にも役立ちます。スタートアップ企業にとってメリットの多い制度ですが、金利変動リスクや元金の一括返済義務などの課題もあるため、企業の状況や長期的な資金計画を考慮した慎重な判断が求められます。
スタートアップ企業がとれる資金調達方法は、資本性ローン以外にもさまざまあります。適切な方法は企業の状況ごとに異なるため、事業内容や現状を踏まえて検討していく必要があるでしょう。
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